【全政策まとめ】第一次トランプ政権とは何だったのか

政治学

ドナルドトランプの大統領任期はメディアの注目を集める派手な発言や政策だけでなく、あまり報道されなかった改革や変更によっても特徴づけられています。

アメリカ・ファーストを掲げた4年間は移民政策の厳格化や大規模減税など物議を醸す政策が目立ちましたが、その背後では司法制度の再編や規制緩和など米国の未来に長期的な影響を与える多くの変化が静かに進行していました。

本記事では広く報道された政策だけでなく、あまり注目されなかったトランプ政権の政策や制度変更にも光を当て、その多面的な影響を掘り下げていけたらと思います。

国内政策の変革

税制改革と経済政策

トランプ政権最大の国内政策の成果の一つが2017年の「減税・雇用法」(Tax Cuts and Jobs Act、TCJA)です。この法律は30年以上ぶりの大規模な税制改革で法人税率を35%から21%へと大幅に引き下げるものでした。

結果、企業にとって大きな恩恵をもたらしましたが個人への影響はあまり広く理解されていないともいえます。TCJAでは標準控除額が倍増し子供税額控除も拡大されたため多くの中間層の納税者にも一定の恩恵がありました。

Trump: America first and only America first

ただ注目すべき点は個人向けの税制変更のほとんどが2025年末に期限切れとなる暫定措置である一方、法人税率の引き下げは恒久的な措置となっていることでしょうか。これによって高所得者の最高限界税率は37%から39.6%に戻る予定でありパススルー事業体(収益が個人所得として課税される事業形態)を所有する人々にとっては、適格事業所得控除の期限切れも大きな懸念材料となっています。

一方あまり注目されていない経済政策としてトランプ政権は職業免許要件の見直しと撤廃も積極的に推進しました。多くの職業で必要とされる免許取得の負担を軽減することで労働市場への参入障壁を下げ、経済の活性化を図ろうとする試みでした。

医療政策の転換

トランプ大統領はオバマケア(医療費負担適正化法、ACA)の廃止を主要な公約に掲げていましたが議会での廃止の試みは失敗に終わりました。しかし政権は行政措置を通じてACAを部分的に解体する取り組みを進めました。

特に重要だったのは2017年のTCJAに含まれた個人加入義務(Individual Mandate)のペナルティの実質的廃止です。これは健康保険に加入しない個人に課されていた罰金をゼロにするものでACAの中核的な仕組みの一つを無効化しました。

この変更は保険市場に大きな影響を与え、健康な人々が保険加入を見送るようになったことで無保険率が上昇し、保険料の値上げと市場の不安定化を招きました。一部の州はこうした影響を緩和するために独自の個人加入義務を導入しています。

一方で医療分野での取り組みとして2020年のパンデミック対応における「ワープ・スピード作戦」があります。この官民パートナーシップはCOVID-19ワクチンの開発、製造、流通を加速させることを目的としたもので、ファイザーやモデルナといった企業のワクチン開発を支援し記録的なスピードで安全で効果的なワクチンを実用化するのに貢献しました。

ワープ・スピード作戦のあまり知られてない側面としてワクチンを全国に届けるための物流作戦の構築があります。この取り組みはその後のワクチン配布の基盤となりパンデミック対応において重要な役割を果たしました。

教育と司法制度の改革

トランプ政権下では教育政策においても大きな変化がありました。ベッツィー・デボス教育長官の下で実施された変更の中で最も注目を集めたのはタイトルIXの性的不祥事に関する規則の見直しでした。

2020年5月に発表された新規則ではセクシュアル・ハラスメントの定義が狭められ、性的非行があった場合に反対尋問を伴うライブ・ヒアリングの実施を学校に義務付けるなどの変更が行われました。これは被告人の適正手続きの権利を強化する意図がありましたが批評家からは被害者の名乗り出を抑止する恐れがあるとの批判もありました。

あまり注目されなかった教育分野での変更としては学校の懲戒慣行の改定や、大学における人種的多様性を促進する政策の廃止などがありました。これらの変更は教育機関における規律や入学政策に影響を与えました。

司法制度に関してはトランプ政権はジェフ・セッションズ、そして後にウィリアム・バーが率いる司法省を通じて、米国の法執行慣行に多くの重要な変更を実施しました。特に注目すべきは検察ガイドラインの変更で「可能な限り厳しい罪状と刑を追求する」よう指示が出されました。

しかしトランプ政権の司法への最も長期的な影響は連邦裁判所への判事任命でしょう。トランプ大統領は過去最多の連邦裁判官を任命しその承認を取り付けました。メディアでは最高裁判事の任命に焦点が当たりましたが地方裁判所や巡回裁判所への多数の保守派判事の任命も今後数十年にわたって米国の法的判断に影響を与え続ける可能性があります。

国際関係と外交政策

アメリカ・ファースト外交

トランプ政権の外交政策は「アメリカ・ファースト」という理念に基づいており、アメリカの国益を最優先する姿勢が貫かれました。この方針は貿易政策から国際協定、同盟関係に至るまで、様々な形で表れています。

貿易政策では中国をはじめとする主要貿易相手国に対して関税を課し不公正とされる貿易慣行の是正を求めました。特に中国との貿易戦争は大きな注目を集めましたが最終的には2020年1月に「第一段階貿易協定」が締結されました。

国際協定については環太平洋経済連携協定(TPP)からの離脱や、パリ気候協定からの脱退など、トランプ政権は多国間協定からの撤退を積極的に進めました。パリ協定からの離脱は環境政策の後退として大きく報じられましたが、それ以外にも野生生物の保護や産業工場からの汚染制限など、多くの環境規制が静かに弱められていったのです。

NATO同盟国との関係も緊張をはらんだものとなりました。トランプ大統領は同盟国が防衛費のより多くの負担を負うべきだと主張し、NATO加盟国に対してGDPの2%を防衛費に充てるという約束の履行を強く求めました。

移民政策の厳格化

トランプ政権の特徴的な政策の一つが移民政策の厳格化です。「ゼロ・トレランス」政策に象徴されるように、国境管理を厳しくし、不法移民の取り締まりを強化しました。特に国境での家族分離は大きな議論を呼び、国内外から批判を浴びました。

あまり報道されなかった政策変更として「パブリック・チャージ」規則の改定があります。この規則は永住権(グリーンカード)や米国への入国を申請する移民が将来的に政府の公的扶助に依存する可能性があるかどうかを判断する基準を拡大するものでした。

具体的には補助的保障所得(SSI)、貧困家庭一時扶助(TANF)、メディケイド、住宅補助プログラムなどの公的給付を利用していることが移民申請のマイナス要因として考慮されるようになりました。この政策は、移民が必要不可欠なサービスを利用することを躊躇させ、弱い立場にある移民コミュニティに悪影響を与えるとして批判されました。

「イスラム教徒入国禁止令」とも呼ばれた一連の大統領令も物議を醸しました。2017年1月に始まったこの政策は当初イスラム教徒の多い7カ国からの米国への入国を制限するものでしたが法的挑戦に直面し、何度か修正されました。最終的に最高裁は2018年6月に入国禁止令の第3版を支持しバイデン大統領の就任まで効力を持ち続けました。

国際貿易の再編

トランプ政権の貿易政策における最大の成果の一つが北米自由貿易協定(NAFTA)に代わる「米国・メキシコ・カナダ協定」(USMCA)の締結です。2020年7月1日に発効したこの協定にはいくつかの重要な変更点が含まれていました。

自動車産業では北米産部品の要件が62.5%から75%に引き上げられ、自動車製造に使用される労働力の40~45%に時給16ドル以上を支払うことが義務付けられました。これはメキシコの安い労働力への依存を減らし、アメリカとカナダの自動車産業の雇用を保護することを意図していました。

そしてUSMCAはアメリカの酪農家にカナダの酪農市場へのアクセスを拡大し知的財産権保護も強化されました。労働基準も大幅に見直され、特にメキシコにおける労働権の改善を目的とした条項が盛り込まれました。

経済面ではUSMCAは北米全域の雇用成長を支えていると評価されており2022年には、2020年比で32%増となる1,700万人近い雇用が域内の財・サービス貿易によって創出されたと報告されています。これはアメリカファーストの理念を体現しつつも三国間の経済関係を維持した例と言えるでしょう。

注目されなかった政策と長期的影響

刑事司法改革とファースト・ステップ法

トランプ政権下の重要な超党派の取り組みとして2018年12月に署名された「ファースト・ステップ法」があります。この刑事司法改革法は連邦刑務所制度を改革し、再犯を減らすことを目的としたものです。

主な条項には、量刑改革、情状釈放の選択肢の拡大、更生プログラムに参加する受刑者に対する稼得時間クレジットの導入などが含まれていました。この法律は非暴力犯罪者に対する強制的な最低刑の軽減や、受刑者に対する職業訓練プログラムの拡大を図るものでした。

2024年初頭の時点で公正量刑法の遡及適用により4,000人以上が減刑されています。また、この法律に基づいて釈放された人々の再犯率を下げるという成功も報告されています。一方教育プログラムのキャンセル待ちや、修得単位計算の問題など実施面での課題も残されています。

ファースト・ステップ法は保守派とリベラル派の両方から支持を受けた数少ない超党派の法案であり、刑事司法制度における重要な一歩と評価されています。

技術と通信政策

トランプ政権下の技術政策における最も物議を醸した取り組みの一つが連邦通信委員会(FCC)によるネット中立性規制の撤廃でした。アジット・パイFCC委員長の下で2017年に実施されたこの変更はインターネット・サービス・プロバイダー(ISP)がインターネット・トラフィックをブロックしたりスロットリングしたり優先順位をつけたりすることを禁じていた規則を廃止するものでした。

パイ委員長はこの廃止がブロードバンド業界の競争と投資を促進すると主張しましたが、批評家からはインターネットの公平性を損なうとの懸念が示されました。またFCCはメディア所有権規則も弱めメディア企業の統合を容易にしました。

FCC chairman Ajit Pai in 100 seconds

技術政策のもう一つの側面は、中国企業に対する対応です。トランプ政権は問題があると考えられる中国企業の対米投資を制限し、ファーウェイやTikTokのような中国のハイテク企業に対する規制を強化しました。これらの措置は、国家安全保障上の懸念に基づくものとされましたが、米中技術覇権競争の一環としての側面も持っていました。

宇宙政策と技術革新

トランプ政権は宇宙政策においても積極的なアプローチを取りました。最も注目を集めたのは米宇宙軍の創設でしたがNASA主導の「アルテミス計画」も重要な取り組みでした。

アルテミス計画は2024年までに人類を月面に帰還させ10年後までに月面に持続可能な人類の存在を確立することを目指したプログラムです。ギリシャ神話に登場するアポロの双子の妹で月の女神であるアルテミスにちなんで命名されたこの計画は1960年代と1970年代のアポロ計画を継承するものとして位置付けられています。

アルテミス計画の目標には最初の女性と次の男性を月面に着陸させること、月面をより広範囲に探査すること、将来の火星探査に必要な技術をテストすることなどが含まれていました。この取り組みには複数のミッション、国際的なパートナーシップ、月軌道上の宇宙ステーション「ゲートウェイ」の開発などが含まれています。

トランプ政権は宇宙規制を合理化し、民間の宇宙活動を活性化させる努力も行いました。これらの取り組みは、米国の宇宙産業の競争力を高め、長期的な宇宙探査と利用の基盤を築くことを目指したものでした。

中東外交とアブラハム合意

トランプ政権の外交政策における重要な成果の一つが「アブラハム合意」として知られる一連の国交正常化協定です。2020年9月15日に調印された最初の協定は、イスラエルとアラブ首長国連邦(UAE)、バーレーンとの間の国交正常化を実現しました。

この合意はユダヤ教徒、キリスト教徒、イスラム教徒にとって重要な聖書の人物アブラハムにちなんで名付けられました。その後、スーダンとモロッコもイスラエルとの関係正常化に合意し、中東地域の力学に大きな変化をもたらしました。

アブラハム合意は広く報道されましたが関連する武器取引や西サハラに関する米国の政策姿勢の転換など、あまり注目されなかった側面も地域の力学に影響を与えました。例えば、UAEへのF-35戦闘機の売却や、モロッコの西サハラ支配権の承認など、合意に至るための裏取引も存在していたとされています。

これらの合意はイスラエルとアラブ諸国の関係改善という点で画期的でしたが、パレスチナ問題の解決には直接結びついていないという批判もあります。nonetheless、中東地域の協力関係を促進する新たな枠組みを提供したという点では重要な外交的成果と言えるでしょう。

トランプ政権の政策に関するよくある質問

Q: トランプ政権の経済政策は実際に効果があったのですか?

A: トランプ政権の経済政策、特に減税と規制緩和はパンデミック前の時期には経済成長と失業率の低下に貢献しました。2017年から2019年にかけて米国のGDP成長率は堅調で失業率は50年ぶりの低水準に達しました。

ただし、これらの政策の長期的な効果については議論があります。減税によって企業の投資が期待されたほど増加しなかったという指摘や財政赤字の拡大につながったという批判もあります。経済成長がどの程度トランプ政権の政策によるものかとそれ以前からの経済回復の継続によるものかという議論も続いています。

Q: ファースト・ステップ法は刑事司法制度にどのような影響を与えましたか?

A: ファースト・ステップ法は連邦刑事司法制度に重要な改革をもたらしました。

2024年初頭の時点で、4,000人以上の受刑者が減刑され多くの非暴力犯罪者が早期釈放されています。釈放された元受刑者の社会復帰を支援するプログラムも拡充されました。

さらにこの法律は刑事司法改革に対する超党派の支持を構築し州レベルでの類似の改革を刺激する触媒の役割も果たしました。ただし実施面での課題もあり更生プログラムの容量不足や稼得時間クレジットの計算方法をめぐる問題なども指摘されています。