ヨーロッパの有名シンクタンク チャタムハウスからIEAまで
チャタムハウス
英国に本部を置くチャタムハウスは英国王立国際問題研究所としても知られ国際政策と外交への貢献で世界的に評価されている。
1920年に設立され100年以上にわたり国際関係の分析と政策提言を行ってきた歴史を持つ。ポジションは中立で政治的にフリーで客観的な性質を特にもつシンクタンクでもあり、この独立性が国際社会からの信頼を獲得している理由の一つとなっている。
これまで気候変動、グローバルヘルス、国際安全保障といった重要な問題に関して世界的な言説の形成に貢献してきた。特に近年では地政学的リスク、サイバーセキュリティ、持続可能な開発などの新たな課題にも積極的に取り組んでいる。定期的に発行される「インターナショナル・アフェアーズ」は国際関係の分野で最も権威のある学術誌の一つとして認められている。
チャタムハウスは政策立案者と専門家の間でオープンで秘密厳守の議論を奨励する「チャタムハウス・ルール」で知られている。
このルールにより議論が行われた場合、議論参加者は受け取った情報を自由に利用していいが発言者他の参加者の身元や所属を明らかにしてはならないというものである。このルールは世界中の多くの会議や討論で採用され、率直かつ建設的な対話を促進する手段として広く認知されている。
同研究所の研究は国際関係に大きな影響を与え世界的な課題に対する批判的な洞察と政策的解決策を提供している。年間を通じて開催される国際会議やワークショップには各国の政府関係者、学者、ビジネスリーダーが参加しグローバルな課題に対する共通理解の構築に貢献している。
財政研究所(IFS)
ロンドンにあるIFSは1969年に設立され経済学と財政学の広範な研究で国際的に評価されている。特に経済データの詳細な分析と実証的な研究アプローチにより政策議論において重要な役割を果たしている。
税制、公共支出、財政問題に関する公平な分析で高く評価されておりその研究は政治的バイアスを排した厳密な経済分析に基づいている。IFSの実績には英国の予算政策や税制改革への影響力、予算発表時の批判的分析、財政問題に関する国民や政府の理解への貢献などがある。イギリス政府にかなり近いシンクタンクといえ、財務省や他の政府機関と密接に協力している一方でその独立した分析と批判的視点を維持している。
IFSの研究はその客観性と財政政策論議への影響力で広く評価されている。特に所得不平等、教育投資の経済的効果、社会保障制度の持続可能性などのテーマに関する研究は政策立案者や一般市民にとって貴重な情報源となっている。IFSの年次「グリーンバジェット」は政府の予算発表に先立って発表され財政政策の包括的な分析と提言を提供している。
レガタム研究所
レガタム・インスティテュートはロンドンを拠点とするシンクタンクで2007年に設立され世界の繁栄を生み出す政策の推進に注力している。
富と幸福の創造における経済、社会、政治的要因の複雑な相互作用を研究している。毎年発表される「レガタム・プロスペリティ・インデックス」で知られ経済的成功、教育、医療など繁栄(プロスペリティ)の様々な指標に基づいて各国をランク付けしている。このインデックスは167か国を対象とし12の柱(経済品質、ビジネス環境、ガバナンス、個人の自由など)に基づいて総合的な繁栄度を評価している。
方向性としては自由市場経済の推進を目指しており企業家精神と革新を通じた経済成長を重視している。同時に社会的包摂や環境持続可能性など繁栄の非経済的側面にも注目しておりバランスの取れたアプローチを心がけている。
同研究所の研究と出版物は経済的・社会的ウェルビーイングに関する世界的な理解を形成することを目的とし国家間の富とウェルビーイングを促進する政策を提唱している。「繁栄のための道」シリーズでは特定の国や地域における繁栄の障壁と機会を詳細に分析し実践的な政策提言を行っている。また、グローバルな課題(移民、技術変化、気候変動など)が繁栄に与える影響についても研究を行っている。
IEA (経済研究所)
IEAこと経済研究所はロンドンに本拠を置き1955年に設立された自由市場経済の推進を目指すタイプのシンクタンクで実際にサッチャー政権時代の英国経済政策では大きな影響を与えていたことで知られる。ハイエクやフリードマンなどの自由主義経済学者との強いつながりを持ちその思想を政策提言に反映させてきた歴史がある。
経済・社会問題に対する自由市場による解決策を提唱しイギリスの経済政策に関する議論の形成に極めて重要な役割を果たしてきた。特に1970年代から80年代にかけて当時のケインズ主義的な経済政策からの転換を促す理論的基盤を提供した点で影響力が高かった。
IEAは限定的な政府介入、自由貿易、市場フレンドリーな政策という考え方を推進し研究、出版、イベントを通じて公共政策の議論に貢献している。教育、医療、環境政策、通貨政策など幅広い分野において市場ベースの解決策を提案しており特に規制緩和と競争の促進を重視している。近年ではブレグジット後の英国経済政策や技術革新による市場変化などにも焦点を当てている。若手研究者の育成にも力を入れており次世代の政策立案者や経済思想家の育成にも貢献している。
ブリューゲル
ブリュッセルを拠点とするシンクタンクで2005年に設立され特にEUの経済政策に焦点を当てている。欧州統合の複雑な課題に対応する独立した視点を提供することを目的としており欧州各国の政府、企業、学術機関からの資金提供を受けて運営されている。
ユーロ圏危機、貿易政策、EU内の経済ガバナンスなどの問題についての議論形成に大きな影響力を持っている。2008年の金融危機とその後のユーロ危機の際には銀行同盟や財政統合に関する重要な政策提言を行いEUの政策対応に貢献した。質の高いリサーチと政策提言で知られEUの経済戦略や規制の策定に貢献している。
ブリューゲルの特徴は厳密な学術研究と実践的な政策提言を組み合わせたアプローチにある。エネルギー政策、気候変動、デジタル経済、移民などEUが直面する主要な課題に対して包括的な分析を提供している。定期的に発行されるポリシーブリーフやワーキングペーパーはEU機関や加盟国政府の政策立案プロセスに直接影響を与えている。また、年次報告書「The State of the Union」ではEUの経済状況と政策課題の包括的な評価を提供している。
最近ではロシアとウクライナの紛争に関連するガス供給問題やエネルギー安全保障、さらにはグリーントランジションなどの問題についても積極的に発言し欧州のエネルギー政策に影響を与えている。
インド、カナダ、オーストラリアの有名シンクタンク
タタ社会科学研究所(TISS)
インドのムンバイを拠点とするTISSは1936年に設立された歴史ある機関で社会科学の研究と教育、特にソーシャルワークと社会政策への貢献で有名である。
タタ財団の支援を受けて設立されインドの社会開発における重要な役割を果たしてきた。
TISSはインドの社会福祉政策と実践の形成に重要な役割を果たしており労働、保健、農村開発分野で多大な貢献をしている。特に社会的弱者(女性、指定カースト・部族、障害者など)のエンパワーメントと包摂に関する研究は国際的に評価されている。災害管理や社会的企業など新たな社会的課題にも積極的に取り組んでいる。
TISSは社会正義と持続可能な開発へのコミットメントで認められておりその研究はインドの社会福祉プログラムに情報を提供し改革する上で極めて重要である。50以上の研究センターを持ち多様な社会問題に対する学際的アプローチを促進している。インドの急速な経済発展に伴う社会変化と不平等の問題に対する批判的分析を提供しより包括的で持続可能な開発モデルを提唱している。また、南アジア全体の社会政策にも影響を与え地域の社会開発における重要なハブとなっている。
フレーザー研究所
カナダのバンクーバーに本部を置くフレーザー研究所は1974年に設立され経済政策の研究、特に自由市場主義の提唱で知られている。カナダの公共政策に関する独立した分析を提供することを目的としており保守的・自由主義的な視点からの政策提言を行っている。
同研究所の主な業績には政府政策、医療、教育改革に関する影響力のある研究が含まれる。カナダの医療制度改革に関する研究では民間セクターの役割拡大と患者選択の増加を提唱している。教育分野では学校選択と教育バウチャーの導入を支持する研究を行っている。経済的自由度に基づいて各国をランク付けした年次報告書「世界の経済自由度」でも知られ世界的な経済政策論争に影響を与えている。このインデックスは165カ国以上をカバーし規制、法的枠組み、市場開放度などの指標に基づいて経済的自由度を評価している。
フレイザー研究所の活動はカナダ国内外において経済的自由と政府の限定的介入をめぐる議論を促進する中心的存在となっている。
環境政策に関しては市場ベースの解決策を提唱し炭素税などの規制的アプローチに批判的な立場をとっている。また、天然資源開発と経済成長のバランスに関する研究も行っておりカナダの資源政策に影響を与えている。若手研究者向けのインターンシッププログラムや学生向けのセミナーなども開催し自由市場思想の次世代への普及にも力を入れている。
ローウィー研究所
ローウィー研究所はオーストラリアのシドニーを拠点とする独立系シンクタンクで2003年に設立され国際政策に重点を置いている。
オーストラリアの外交政策、安全保障、国際関係に関する独立した分析と提言を行うことを目的としている。設立者のフランク・ローウィー氏はオーストラリアの実業家で慈善家であり国際問題に対する公共の理解を深めるためにこの研究所を設立した。
特にアジア太平洋地域に重点を置きオーストラリアの視点からグローバルな問題に関する議論や政策立案に貢献している。中国の台頭、米中関係、気候変動の地政学的影響、サイバーセキュリティなどオーストラリアの国益に直接影響を与える問題に関する研究を行っている。太平洋島嶼国との関係強化やインド太平洋地域における戦略的パートナーシップの構築に関する政策提言も行っておりオーストラリアの地域的役割の形成に貢献している。
毎年開催される「ローウィー講演会」で知られ世界の著名人を招いて国際関係や政策について議論する。この講演会ではオーストラリアやより広範な国際社会に影響を与える外交、戦略、経済問題についての洞察を提供している。過去の講演者には国連事務総長、各国の首相や大統領、ノーベル賞受賞者などが含まれオーストラリアの国際的議論への参加を促進している。
また、「ローウィー・インスティテュート・ポール」として知られる定期的な世論調査を実施し外交政策や国際問題に関するオーストラリア国民の意識を測定している。この調査結果はオーストラリアの公共政策と外交政策の方向性に影響を与えるとともにオーストラリア社会の国際的視点について貴重な洞察を提供している。
デジタル外交や人道支援など新たな国際的課題に関する革新的な研究プログラムも開発している。





